グラフィック・デザイナーの落とし穴

デザイン グラフィック・デザイン

 私自身、学生時代から、グラフィック・デザインを専攻してきました。

 そのため、社会に出ても、もっぱら、グラフィック・デザインの仕事をしてきたんですね。

 そんな自分でも、振り返って考えてみると、広く、プロダクト・デザインや、インテリア・デザインに興味を持っていて、よかったな、と、つくづく思います。

 

 グラフィック・デザインに、興味を持ったきっかけというのは、やはり、幼い頃の環境が大きかったと思います。

 それまでは、多くの人と同じように、芸術やアートからの延長線上で、グラフィック・デザインをとらえていました。

 私の若い頃は、やはり、まだまだアメリカ文化の影響が強くて、ポップで、派手な、アメリカの雑誌や広告が、グラフィック・デザインの、具体的なイメージでした。

 ほとんどと言っていいほど、ヨーロッパのデザインについては、知らなかったと思います。

 

 しかし、入った大学が、工学というか、理系方面から、デザインにアプローチする、という感じだったんですね。

 だから、デザインを学ぶコースとは別に、建築を学ぶコースもありました。

 

 また、デザインも、グラフィック・デザインを学ぶのは、あくまでも一部の人で、どちらかというと、プロダクト・デザインやインテリア・デザインを学ぶ人たちも、多かったです。

 そのため、私も、グラフィック・デザインだけに限定されず、広く、さまざまな分野に興味を持ち、学んできた、ということです。

 

 あと、大学時代に出会った恩師の言葉も、心に残っています。

 その先生が、よく言われていたのが、「全てのデザインは、つながっている」という言葉です。

 やはり、デザインですから、根本の部分では、共通し、また、影響しあっているんですね。

 だから、グラフィック・デザインを学ぼうと思ったら、それだけではなく、他分野のデザインを勉強することも、非常に有益になる、ということです。

 

 そもそも、昔のデザイナーの方々は、自分で家を設計し、そこに置く家具も、デザインしたりしていました。

 そして、そこに飾る絵なども描いていた、というぐらい、全てのデザイン分野をカバーしていたんです。

 それが、時代が進むにつれて、各分野に分散し、専門化してきた、という感じです。

 まあ、各分野の技術が発達し、学ぶことも、やることも多くなった、という理由もあるんですが。

 

 それと、今、振り返って考えてみると、私が、そもそも、デザインのセンスがない、ということに自覚的だった、というのも、理論的に考え、さまざまな分野のデザインを学ぶ理由の一つかもしれません。

 つまり、グラフィック・デザイン一本で、ガンガン進んでいけるほどの感性もないし、自信もなかった、ということです。

 

 正直、今でも、デザインにとりかかる前は、何にも思い浮かばず、絶望的な気分になります。

 ピカッと、ひらめいて、魅力的なデザインを、スムーズに作り出す、というわけには、とてもいきません。

 だからこそ、デザインの理論理屈や法則、そして、方程式などに興味を持つのかもしれません。

 知識や理屈でデザインをはじめれば、とりあえず、形を生み出す、きっかけにはなるからです。

 

 さて、実は、ここまでが前提というか、前置きです。

 長くなって、すいません。

 本当にお伝えしたかったことは、ここからです。

 

 このような、グラフィック・デザインだけではなく、他のデザイン分野を学んできたことは、非常によかったのではないか、と、歳を重ねて思うのです。

 今まで上げたのが、プラスの理由だったのですが、実は、マイナスをカバーすることも、できていたのではないか、ということです。

 

 グラフィック・デザインの場合、そのほとんどが、頭の中で形成されます。

 つまり、現実世界とは離れた、といいますか、現実的な、リアルの束縛を、受けにくい分野だと思うのです。

 

 頭の中で考え、それを表現する。

 それが、うまくハマれば、立派なグラフィック・デザインとなる。

 

 かなり乱暴ですが、グラフィック・デザインの成立を、ざっと語ればこんな感じです。

 そのため、自分の頭の中だけで、考えてしまいがちです。

 もっと言えば、センスや感性のある人、才能のある人は、その人の思ったとおりに、デザインをやってしまうことができるのです。

 もちろん、それが、肯定される場面もあります。

 しかし、客観的に見ると、それだけに頼っていると、ちょっと危険かな、とも思うのです。

 

 プロダクト・デザインやインテリア・デザイン、そして、建築の場合は、そうはいきません。

 極端な話、建築では、いかに自分が素晴らしく、美しいと思っても、それが実際に建たないと、建築物として成立しません。

 また、椅子のデザインも、座ったら壊れるようでは、椅子としての存在価値がないのです。

 プロダクトやインテリアのデザイナーは、そういった問題を、日々、解決しつつ、デザインしています。

 

 つまり、何が言いたいかというと、グラフィック・デザイナーも、気をつけないと、現実離れして、空想上のデザインをしてしまう危険があるのではないか、と思うのです。

 才能があるグラフィック・デザイナーこそ、この落とし穴に気付かずに、落ちてしまうのではないか、と心配するのです。

 

 やはり、デザインは、リアル、つまり、現実世界に根差してこそ、成立します。

 それは、デジタル分野でも、Webデザインでも同じです。

 

 やはり、デザイン分野に限らず、常に広い視野を持ち、冷静に、自分自身を見つめ直してみる、ということは、大事なことだと思うのです。

 

 

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