デッサンを学ぶ場合、目的意識をしっかりと持った方がいいです。
なぜかと言うと、デッサンというのは、非常に幅広く、また、奥深いからです。
そのため、単に「デッサンをうまくなろう」というだけの気持ちで始めると、どんどんと、深みにはまってしまうんですね。
もちろん、デッサン自体が好きで、それを極めたい、という方は、全力で進んでもらってかまいません。
しかし、私のように、デザインを学ぶ一過程としてデッサンを学びたい、という者にとっては、必要最小限のテクニックを吸収できればいいわけです。
でも、かといって、基本的な技術だけでは、美大の入試や、デザイン学科のデッサン授業の課題もクリアできません。
必要なデッサン技術を効率よく学びつつ、表現力豊かなテクニックも身につける、それが理想なのです。
そんな都合のいい方法があるのか、と疑問に思われるかもしれませんが、それを、しっかりとまとめたのが、こちらです。
松本英一郎、深澤純子著 『デザイナーのための精密デッサン』
(アトリエ技法シリーズ増刊E10、 アトリエ出版社、1984年発行)
本書のすごいところは、デッサンの基本をしっかりと解説しつつ、応用的な技術も紹介している、という点です。
つまり、デッサンの基礎的な部分から、順序立てて、高度なデッサン、つまり、精密デッサンへと、連続的に説明しているわけです。
そのため、難しいと感じる精密デッサンを、いつの間にか理解して、描くコツもわかる、という優れた技法書となっています。
やはり何と言っても、本のタイトルにあるように、「デザイナーのための」と、わざわざ限定してある点が、すごいと思います。
よく、デッサンの精密表現技法を解説する場合は、どちらかというと美術的な解説になります。
そうなると、やはり、感覚的、感性的な話が多くなり、実際のデッサンも、絵画的になるわけです。
しかし、本書『デザイナーのための精密デッサン』では、理屈というか、理論的に、順番に説明していきます。
そのため、頭に入りやすく、手を動かしやすいのです。
この論理的思考というのが、やはりデザイナーには必要です。
もちろん感性も必要ですが、それが理性とバランスがとれた時に、素晴らしいデザインが生まれるのです。
それをデッサンの段階で、体験できるのが、本書なのです。
ただ、こちらの本にも弱点というか、あまりオススメできない部分もあります。
それは、これからデッサンを初めるという、まったくの初心者の方には、ちょっと難しい内容だ、ということです。
ある程度、基本形体を描くことができ、シンプルなモチーフだったら、デッサン作品を完成させることができる、というぐらいの方でないと、内容は難しいかもしれません。
逆に、デッサンの基礎をマスターした方が、さらに表現力を高めたい、精密デッサンに挑戦してみたい、という場合には、十分に参考になると思います。
なんといっても、デッサンをある程度、上達していくには、いかに精密に描いて、表現力を豊かにするか、ということが重要です。
これなくして、高度なデッサンを描くことはできません。
逆に、精密デッサンを身につけることができれば、デッサン上級者となり、ほぼマスターしたと言ってもいいでしょう。
そのようなデッサン技術を身につけたい、と、心から望む方にこそ、手に取ってもらいたい一冊です。
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