時代が、本物の「アトリエ・シリーズ」を生んだ

私は、デッサンの基本を学ぶための本として、アトリエ・シリーズを、ご紹介しています。

例えば、こちらのような本です。

『鉛筆デッサン 見る・描く』アトリエ NO.602


なぜ、多くのデッサン技法書の中から、アトリエ・シリーズをご紹介しているのか、その理由を、ご説明します。


まず、このシリーズが刊行されたのが、1960年代です。

だいたい、今から50年ぐらい前ですね。

ちょうどその頃、日本も戦後の復興もひと段落つき、ようやく、暮らしにゆとりが出始めた時代です。

そのため、芸術などの分野にも、関心が高まってきました。

そういった時代背景があって、生み出された技法書です。


そのため、今のデッサンの技法書と違って、いくつかの特長があります。


一つは、やはり、わかりやすいことです。

読者は、今まで、デッサンなどを、ほとんど、やったことがない人ばかりです。

そのため、そういった人たちでも、受け入れてもらえるようなテクニックを説明しなければなりません。

だから、デッサンをはじめやすいように、わかりやすく、そして、丁寧に説明してあります。


さらに、非常にポイントが絞り込まれている、というのも、大きな特長です。

やはり、いきなり、たくさんのことを説明しても、初心者の人は、混乱してしまいます。

そのため、これだけは、というポイントに絞って、必要なテクニックや考え方を、説明しています。


その結果として、非常に薄い本となっています。

どちらかというと、本というよりも、雑誌の延長線上にあります。


これは、やはり、経済的な面から、こうなったということもあるでしょう。

どういう事かと言うと、製本がりっぱで、分厚い、昔からあるような専門書ですと、どうしても、印刷費がかかります。

そうすると、値段が高くなるんですね。

その場合、多くの人の手には渡らず、ごくごく一部の人しか入手できない。

これではデッサンを学びたいという人の期待に応えることができません。

そこで、なるべく、製作費を安く抑え、値段を低くしたのではないでしょうか。


ただ、そのため、すぐに劣化しやすく、現在まで残っているのは、わずか、ということで、今では貴重な技法書となっています。


ただ、初心者の人に向けてのデッサン本といっても、そこに書かれてあるテクニックは、まぎれもなく本物です。

執筆されているのは、当時の美術大学で、第一線で教鞭をとっている先生方です。

そのため、この本の中で語られる内容は、日本でもトップレベルの内容となっています。


当時は、デッサンやデザインを学ぶ場は、美術系の大学が中心でした。

そこで、語られていているテクニックは、もちろん、現在でも、十分、通用します。

逆に、デジタル寄りになった現在では、貴重な技法が語られている、といってもいいでしょう。

私は、とても貴重な資料だと思います。